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交通事故を起こした社員の処分と弁償

交通事故当事者に対して、
 就業規則に基づく懲戒処分と、
  弁償等の損害賠償措置を行います。

運転者に重大な過失があるときに限り、処分と求償行為が成立します。

 業務上車両を使う社員といえど、事故原因に運転者の故意や重大な過失がある場合は、再発防止と他者に対する示しの観点から必要な処分を実施しなければなりません。
 しかし、業務に付随する交通事故であれば基本的に損害賠償を行うことはできません。その上で、他のミスや不祥事等の処分と同様に、客観性と合理性のある処分を行わなければなりません。
 また、交通事故をなくす(減らす)ことを目的とする場合、事故は車を使用する業務では絶えない重大な問題です。処分等による示しだけでなく、無事故による表彰や他の啓発活動等による総合的な取組が重要です。

・処分の種類
 交通事故の処分では、
 ・就業規則に基づく運転者に対する過失や故意等の行為に対する懲戒処分
 ・会社等に与えた損害に基づく損害賠償処分(正当な業務活動による事故を除く)
 この二つの処分の内、いずれか一方。又は、その両方により処分が行われます。

・就業規則に基づく懲戒処分
 就業規則に照らし合わせ、運転者の過失による行為。故意による行為。無断で使用した行為。
 事故の状況によっては、会社の社会的な信用を貶めた行為等により、該当する懲戒処分により処分を行います。
 また、無事故の継続期間により、手当等で給与に反映する給与制度をとっている場合では、該当する手当の支給停止等を行います。

 通常、業務上の過失による事故では、初回で譴責処分。2回目以降で、減給処分。降格処分等が検討されます。
 しかし、車両の使用が業務に特に影響が大きい業種では、更に重い処分を定める会社もあります。


・損害に対する損害賠償
 運転者の過失割合により生じた車両修理費。相手に対する賠償金。積荷等の破損や遅延による賠償金等から会社が被る損害に対する賠償金です。
 事故による損害の大半は、一時的には保険等により補填されます。しかし、後に保険料の増額などにより会社に損害が発生します。

・交通事故における社員への損害賠償の考え
 会社の車両を無許可で私用で使用した場合を除き、業務に付随する正当な行為で発生した事故であれば、基本的に運転者に賠償させることはできません。
 このため、賠償額や賠償額の比率は、事故の内容や状況により個別に判断せざる負えません。

・損害賠償の客観性と合理性の確保
 損害賠償については、当事者及び他の社員に対する客観性と合理性を確保することが特に重要です。
 しかし、予め賠償基準を就業規則等に定めておくことは、労働基準法第16条:賠償予定の禁止 に抵触する恐れがあります。

・関係法令
 労働基準法第16条:賠償予定の禁止
 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

・賠償額の算定
 損害賠償額の基本は、実際に会社が被る損害額を元に算定することが基本です。保険等から補填される実害がない損害に対して賠償を求めることは出来ません。
 ・損害賠償出来る内容
 保険が使用できなかった分の修理費等。
 保険料が増額となる分。または、フリート契約等で保険料に影響を与える使用された保険金の額。
 修理により車両を使用できない期間に相当する契約料。
 営業車であれば営業損害から必要経費が控除された額。

 ・損害賠償出来ない内容
 人身事故の自賠責保険から支払われた治療費等。
 企業イメージ低下等の金額による算定が不可能な損害。
 但し、売り上げ減少と事故との因果関係が立証できる場合は算定できる。
 また、単に企業イメージを低下させたことについては、懲戒行為としての処分を検討します。
 この他、正当な業務に付随する範囲で起きた事故についても損害賠償をすることが出来ないため、賞与や人事査定による対処を行います。

 ・損害賠償額
 実際の損害賠償額から、会社の管理者責任を除いた割合を上限に損害賠償ができます。
 しかし、事故当事者に対する今後の期待。事故に関する戒め的な意味合い。他者に対する示し。かかった費用。
 普段の素行と事故の因果関係。車両及び当事者の勤務状況等、様々なことを考慮して賠償額を決定します。
 損害賠償額については、当該事故だけでなく他の事故での損害賠償を含め客観性と合理性を損なうことが無いよう、十分な注意が必要です。

・損害賠償金の支払
 損害賠償については、正当な賠償金であったも無制限に給与天引きによる徴収を行うことは出来ません。
 賠償金の額と当事者の支払能力を相談した上で支払いを求めます。
 その結果、労働者から給与時に分割による支払として給与から天引きを希望した場合。または天引きに同意した場合に初めて天引きによる賠償金の支払(回収)を行うことが出来ますが、労働基準法に一部抵触する恐れがあることに注意しなければなりません。

・全額支払いの原則と制裁規定との調整
 労働基準法第24条には、賃金の全額支払いの旨が定められています。(以下、全額支払いの原則)
 また、同法第91条には、制裁規定制限により賃金総額の10分の1等を超えてはならない旨の定めがあります。(以下、制裁の制限)
 損害賠償による天引きは、予め定める制裁規定とは別物です。
 しかし、本人の希望により給与から天引きをする場合は、全額支払いの原則と制裁の制限に抵触する恐れのある行為です。給与から高額の天引き行われた理由について、不当な扱いではないことの客観性を確保しておくことが重要です。
 具体的には、誤解が発生しないよう本人と天引きを承諾する合意文章を取り交わすことが必要です。
 また、基本的には無理に給与天引きにる回収を避け、一旦給与として支払った後に賠償金を受け取ることで、無用なトラブルを回避することができます。

・関係法令
 ・労働基準法 第24条(賃金の支払)
 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 ・労働基準法 第91条(制裁規定の制限)
 就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。

・賠償の可否
 交通事故での損害賠償は、正当な業務による付随した内容であれば損害賠償を行うことが出来ません。
 あくまで故意による事故。私的利用などの業務以外の使用。悪質な交通違反など運転者に明らかで重大な過失があるときに限り、可能となります。
 これような明らかな問題がない場合、査定や懲戒による方法で処分で検討することしか出来ないことに注意が必要です。
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